2009年01月24日

「自分探しが止まらない」を読んだ

自分探しが止まらない (速水健朗 著)を読んだ。

「自分探し」ということについて、事例や歴史や背景を述べ、「自分探しホイホイ」としてのビジネスについて述べ、「自分探し」の時代の背景やはまり込まないためのヒントを示している。

最初の第1章では海外に出る若者の例を挙げており、サッカーの中田からイラクに渡航して世間を騒がし「自己責任」というキーワードが流行るきっかけを作ったひとたちまで述べられている。「あいのり」についても述べられている。これらのルーツとなっている自己啓発本について述べられ、「ニュー・ソート」という運動の思想から派生しており、ポジティブ・シンキング志向につながっていると主張している。他にもインドのサイババ信仰などについて述べられている。いろいろと自分が知らないことも書いてあり、ある意味勉強になったと感じた。ただ、どちらかというと自己啓発・自分探しに否定的なトーンでかかれており、この本を読み進めるのをやめようか迷ったが、背景などを知るという意味では意義があると考えてこの先も読んだ。

第2章では、フリーターの自分探しについて述べられており、高度成長時代からの時代の変遷の過程で労働観が変化してきており、やりがいなどで得体の知れない感じ仕事が多く、もっと直接的にやりがいを感じることができる職業を選択する傾向も存在していること、などが述べられている。猿岩石の例がフリーターに影響を与えたとか、新自由主義(95年レポートで、幹部候補エリート、スペシャリスト、使い捨て激安労働力の3つを組み合わせて使っていくことを述べ、それにより人件費を軽減して世界レベルでの企業の競争に対抗する)の影響で「プレカリアート」(不安定な職につく人たち)が増えているとか、「やりたいこと志向」とそれを突きつける社会構造とか、効率化によって仕事のやりがいが収奪されている(キヨスクのおばちゃんの例)とか、が述べられている。時代背景や考え方の変化や「やりがい」の消滅など、いろいろなことが生じていることを述べており、背景について理解するための参考となった。特に、118ページの記述で、『本来存在している「誰もやりたがらないことを進んでやること」に対する価値への配慮がまったくないのは問題だろう。』というのは良いことを指摘していると思った。

第3章では、自分探しビジネス(沖縄などへ移住し、激安賃金で働かさせる、NGOなどの不透明なビジネス、ホワイトバンド、共同出版ビジネス、自己啓発系居酒屋、ラーメン屋)について述べている。

ホワイトバンドについては、(最近上場した)サニーサイドアップなどのPR会社についての記述もあり、広告を使わずにメディアを利用し話題作りを考える仕事をしていると考えられる。自分はPR会社についての知識はほとんどなかったが、「ずるい」と考えるか「新しいビジネス」と考えるか、という点では議論となるという記述は納得した。新しいやり方の一つなんだろうけど、特に日本人は自己をもたずにメディアに流される傾向が強いので、こいつらが暗躍すると日本自体が間違った方向へいってしまうこともあり、メディアなどを使った操作にはなんらかの制限が必要と感じる。最近のマスコミの劣化とこういったPR会社の躍進はどちらが先なのかはなんとも言えないが、マスコミの体力が落ちてきていることからPR会社は今後さらに幅を利かせてくると感じており、脅威だと思う。

自己啓発系居酒屋については、和民グループについて述べられており、「夢」などというキーワードで若者をより安い時給でひきつけて仕事をさせているという記述がある。『労働社会学者の本田由紀は「<やりがい>の搾取」という言葉を使っている』という記述があり、このやりがいの搾取という言葉はかなり衝撃的だった。

第4章では、自分探しが止まらないということについて述べており、「OL留学」、「ねるとん」と「あいのり」世代の価値観の違い(バブリーな要素vs.自分らしさ)、ハルマゲドン2.0(ウェブ進化論)、内面に潜む潜在能力の開花、などについて述べている。最後に総括として、自己責任の時代で自分探しが止まらないのげ現代の姿であり、安易に「自分探し」に逃げ込まず、各人が努力や研鑽をすべきであるとしている。

本全体を読んでいると、自分探しに批判的な記述が多いが、著者自身も団塊ジュニア世代で「自分探し」を経験してきており、その自己批判という部分もあるとのこと。自己啓発セミナーや海外放浪など安易にポジティブシンキングに逃げ込むことを批判しているが、ポジティブシンキングそのものを批判しているわけではない、という記述もある。

たまたまWebで見つけた本のタイトルを見て、最近の自分の状況からやたらと気になったために読んでみたが、いわゆる自分探しが蔓延する背景などについての知識を得ることができ、有意義だったと思う。いろいろな事例を挙げているうちに雑談が増えてしまっているのは本としてどうかとは思うが、自分も著者と同世代ということもあり、共感を持つ部分も多かった。自分も時間的余裕と金銭感覚が現状と違う状況におかれていれば、もっと自己啓発とか自分探しとかにはまりこんでいたと思う部分もあり、興味深く読むことができた。と同時に、現代社会の難しい面について改めて認識させられた。PR会社とやりがいの搾取という記述は特に気になった部分だった。
posted by mako at 12:26| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(ビジネス本・その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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